導入・展開・終結の方法


 

①使用するケース

 

さて、このエンプティ・チェアの技法ですが、

その原理にしたがって、

状態が整った時に、大きな効果を発揮するものです。

 

ゲシュタルト療法家の中でも、

ただ手当たり次第に、この技法を使っている人を、

たまに見かけますが、

それは、逆効果になる場合もあるので、

注意したいところです。

 

さて、その原理を見たところで、

この技術上の仕掛けが、

椅子に、或る自我状態(欲求状態)を、

アンカリングすることによって、

生ずることを見ました。

 

ここから、

その技法の得意とする使用場面が、

類推されます。

 

つまり、

クライアントの方の中に、

ある「異物的な自我(欲求)状態」がある時や、

「複数の自我(欲求)状態」に調整がつかず、

葛藤がある時などに、

この技法が、功を奏するのです。

 

クライアントの方の中に、

強く情動づけられた、

独立性の高い自我(欲求)状態があり、

それが、本人(主体)を苦しめていたり、

困らしている時に、

それらの自我(欲求)状態を取り出すのに、

有効な技法となっているのです。

 

その自我(欲求)状態は、

「他者」に投影されていたり、

抽象的な「出来事」に投影されていたりと、

話を聞くだけ中では、

判然としないのですが、

エンプティ・チェアの技法の中で、

欲求を可視化していくことで、

だんだんと増幅され、明確化して来るのです。

(もしくはセッションの中で、

その状態を高めないといけません) 

 

②使用するタイミング

 

セッション(ワーク)の中で、

この技法を使用するタイミングですが、

クライアントの方の中で、

「異物的な自我(欲求)状態」が、

それとなく認められて、

その欲求を明確化することが、

クライアントの方の気づきとなり、

内部の感情的な動きを活発化すると、

判断された場合に、この技法を導入します。

 

欲求(自我)が、

「人」に投影されている場合は、

椅子に、その特定の人を置いてみたり、

「出来事」「物」に投影されている場合は、

椅子に、その出来事や物を置いてみます。

 

この導入のタイミングは、

早すぎても、遅すぎても、

あまり、うまくありません。

 

クライアントの方の中で、

その感情がチラチラと萌芽していて、

「気になる感じに成りはじめたが、

明確に何かはわからない」というくらいが、

ちょうどいい感覚です。

 

クライアントの方が、

興味をもって、その探求に新鮮に

乗り出せるタイミングです。

 

その導入が早すぎると、

気になる感じが、

まだ身中に充分に育っていないので、

その椅子を用意しても、

充分に投影できず(アンカリングせず)、

クライアントの方の中で、

いまひとつピンと来ないし、

その欲求(自我)も、

展開しないことになります。

 

その導入が遅すぎると、

その欲求(自我)への認知が、

充分なされてしまって、

既知の欲求となってしまい、

椅子に、強い投影が起こらず(アンカリングせず)、

精彩(欲求)を欠いた、

演技のようなものになってしまうのです。

 

自発的な強い欲求が、

未知の異物の塊りとして、

クライアントの方の中で、

姿を現しはじめた時に、

これをつかまえるのがベストです。

 

料理における、

火の通り方のようなもので、

レアとミディアムの間くらいが、

ちょうどいいのかもしれません。

 

 

③展開に先立って

 

さて、この技法の持ち味を活かして、

いかんなくその効果を発揮しつつ、

展開していくのは、

前提として、

椅子に投影された、

自我(欲求)状態のエネルギーが、

椅子に充分に、アンカリングされていることが、

必須です。

 

整理すると、

・感情エネルギーの量

・アンカリングの強さ

の二つの要素です。

 

異物としての自我(欲求)状態のエネルギーと、

椅子とつながっているエネルギーとが、

ともに、充分な強さに達しているかを、

確認しないといけません。

 

魚釣りでいうと、

針が魚にしっかりと刺さっているか、

否かです。

針がしっかり掛かっていない釣りは、

失敗します。

 

これらのエネルギーが弱い場合は、

クライアントの方に、

ひとつひとつの椅子(役、ロール)を、

まずしっかりと体験してもらい、

その自我(欲求)状態のエネルギーを高めてもらいます。
また、そのことを通して、
その椅子とのアンカリングを強めてもらいます。

そして、

充分なエネルギーが満ちて来たところで、

椅子の役割交代や、

実験的な応用展開に、

移っていきます。

 

 

④クロージング(終結)

 

この技法のクロージングは、

クライアントの方の、

自発的な衝動が導いてくれます。

特に、操作する必要はありません。

それでは最終的には、

未完了感を残してしまいます。

 

ファシリテーターが行なうことは、

体験を促進することと、

別の視点(観点)が存在しているかどうかを、

気づいてもらったり、

提案してみることです。

 

クライアントの方に、

さまざまな気づきの実験をしてもらう中で、

自分でしっくりする状態を、

創り出してもらうのです。

別に記したように、

統合的な自我状態を持って完了することもあれば、

そうでないこともあります。

 

当然、セッション時間には限りがあります。

一方、葛藤関係にある、

自我(欲求)状態が、望むほどは充分に、

感情を発散しきらないこともあります。

 

ただ、それも、その時の、

クライアントの方の状態だと心得て、

無理に操作的な発散や、

統合的な外観を狙わないことです。

クライアントの方のプロセスを信頼して、

その時の状態への充分な気づきをもって、

クロージングに向かえば良いのです。

 

 

 ※ゲシュタルト療法の全体については拙著

『ゲシュタルト療法ガイドブック 自由と創造のための変容技法』

をご覧ください。

※エンプティ・チェア技法の詳細な手順や、応用的な使い方、

また、気づきや変性意識状態についての、

総合的な方法論は、拙著↓

入門ガイド

『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』

および、

『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』

をご覧下さい。