さて、
「エンプティ・チェアの技法Ⅰ」では、
一番よく使用されるタイプの、
使用方法とその原理を、
見てみました。
誰か実在の人物を、
エンプティ・チェアに置いて、
その人物に、語りかけ、
伝いたいことを伝えたり、
また、相手になってみて、
その気持ちを探ってみるという、
形のものです。
また、これとは別に、
ワークが、進行する中で、
クライアントの方の中から出てくる、
心的欲求(感情)を、
エンプティ・チェアに、
展開していく手法があります。
これは、とても効果を発揮する技法です。
ここでは、それについて、
記していきましょう。
①「複数の自我」を知る
私たちは、
「複数の自我」を持っていますが、
ほとんど、それらを意識することなく、
生活していることを、別で、見ました。
そのため、
それらの自我が葛藤を起こし、
私たちを苦しめていても、
その解決の糸口がつかめません。
私たちが、
「複数の自分」であることに、
「無知」であるからです。
ここにおいては、何よりもまず、、
「真に知る=識る」ことが、
解決の入り口となります。
しかし、真に「知る=識る」とは、
「解釈=理論」を、当てはめることではありません。
「真に識る」とは、
対象との、存在的な同調・共振においてしか、
全身的な関わり・交わり(交感)の中でしか、
得られないものです。
それは、感覚的な把握に他なりません。
エンプティ・チェアの技法は、
「複数の自我」を、
直接に体験し、
それら自身になり、
それらを識り、
それらを生きることができるがゆえに、
大きな療法的効果となるのです。
②「複数の自我」を切り分け、取り出す
さて、私たちが、
「複数の自我」の存在に、
普段、気づけないのは、
それらが、よく「見えない=認知できない」からです。
それは、喩えると、
あたかも、濁った暗い水面から、
水面下の、
ぼんやりとした鯉(欲求、自我)の影を見ているようなものです。
それらを、ぼんやりと、
悶々とした情動の惑乱(衝動、圧迫)として、
感じているだけなのです。
エンプティ・チェアの技法は、
喩えると、この、
「鯉(欲求、自我)」を、一旦、
濁った暗い池から、
「澄んだ生け簀」に、移すようなものです。
そこにおいて、
私たちは、自分の中にある、
さまざまな複数の自我を、
目の当たりにすることができるのです。
そして、
それらを、直接見ることや、
体験することが、
できるようになるのです。
実際の使用場面でいうと、
ワークを展開していく中で、
クライアントの方の中に、
2つの自我の葛藤を見出すことがあります。
それは、
胸の前で、両手を合わせて、
ギューと押しあっている感じです。
または、
クライアントの方が、
ある感情を表現しようとしている時に、
「ノイズ」のように、
それを妨げる力(存在)を感知する場合があります。
そのような場合に、
クライアントの方に、
それらの存在を指摘し、
それらを、椅子に、
ロール(役)として、
分けて(置いて)みることを、提案していきます。
②各「自我」を生ききる
葛藤がある場合、
それは、例えば、
胸の前で、両手を合わせて、
「押しあっている」ような感じとしました。
この状態は、それぞれが、
相手を押しているので、喩えると、
二人が「同時に」しゃべっているようなもので、
騒音(欲求・感情)が混じりあっていて、
それぞれの欲求(感情)や、
自我の言い分は、
よくわかりません。
さて、
「押しあっていた両手」の、
片方の手を、いきなり外すと、どうなるでしょう?
つっかえがはずれて、
もう片方の手の力が、バーンと出ます。
ロール(役)を分けるとは、そのようなことです。
クライアントの方に、
それぞれのロール(役)に分かれてもらい、
片方の自我の妨げを取り除いた状態で、
もう片方の自我そのものになってもらうのです。
そうすると、
葛藤の時には、体験もできなかったような、
各欲求(自我)の存在が、
バーンと、表に出てくるのです。
そして、
クライアントに、それぞれのロール(役)に、
代わりばんこになってもらい、
欲求(自我)同士の対話を、進めもらうのです。
さて、実は、
各欲求(自我)は、お互い、
相手に言いたいことがあったために、
相手の存在を妨げるという事態が、
起こっていたのです。
そのため、
クライアントの方には、
ロール(役)を分けた状態で、
まず、
それぞれの欲求(感情)の状態を、
十二分に体験してもらいます。
その欲求(自我)が、「何者」であるのかを、
全身全霊で、理解・認識してもらいます。
そして、その上で、
欲求(自我)同士の対話を進めてもらうのです。
そして、
お互い相手の言い分を、
十分認められるようになると、
葛藤はなくなり、
それぞれの欲求(感情)が、
自分自身になり、
各々で、並存できるようになるのです。
相手の欲求(自我)は、
敵やライバルではなく、
別の機能をもった仲間であると、
分かるようになるからです。
さて、エンプティ・チェアの技法を使った、
ワークは、大体、このような形で、
展開します。
葛藤→分離→対話→統合のプロセスを、
たどっていくのです。
エンプティ・チェアの技法は、
ゲシュタルト療法の代表的なテクニックですが、
大変、有効な技法であり、
単なる心理療法にとどまらない、
応用的な活用が、
可能な手法ともなっているのです。
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